フェラーリ F355【ピュアスポーツのお手本となるクルマ】

幸運にもこのクルマに乗るきっかけを得る事が出来ました。
それは、最近、カーシェアがブームになっている中で、スポーツカーのレンタカーサービスもブームになっているからです。
関東圏には、おもしろレンタカー、カーレンタル東京、そして今回、利用させて頂いたのがFun2Driveという走るにはぴったりの仙石原にあるレンタカー屋さんがあります。
そこには、90年代に憧れた280psクラスの走りクルマが扱われており、さらに、ガヤルド、F355、R35GTR、そして、7/7(土)には、二代目NSXの導入を始める、クルマ好きには堪らないバリエーションのクルマが揃っています。
その中でも、私は、一際F355に乗りたいが故に、このレンタカー屋さんを訪れて、3時間50kmプラン、保険込みで35000円のプランを選び、仙石原〜芦ノ湖周辺〜大観山の往復48kmを走る事が出来ました。
昨今、スポーツカーってどんなクルマなのかがはっきりしない中、このクルマから大切な事を教わりました。
それは、速さには無関係な、ピュアスポーツカーらしいパーフェクトなエクステリアと、甲高い、まったく耳障りにならないフェラーリサウンドが得られた事です。
また、ドライバーがクルマに合わせて決まった操作を守る事。
例えば、左運転席の横にあるサイドブレーキの引き方、解除の仕方、発進させる時には必ずクラッチのみで行う事、クラッチが完全に繋がっている時にアクセルを入れるなど、ドライバーがクルマに合わせて、労りを持った運転をして付き合っていく必要がある事。
さらに、リヤバンパーの下を覗くと、Ferrariの名前が刻まれるミッションケースが見えますが、この低い位置にあるミッションケースを常に頭に入れながらドライブを心がける思いやりが必要である事。
ドライバーが、このクルマの事を熟知した上で、ハンドルを握って走らなければ、付き合う事が出来ない、今では考えられない程、気を遣わないと乗れないクルマF355だからこそ、我々が失いかけていた物に対する想いの大切さを改めて教わった気がしました。
私がまだ学生の頃、シビックを公道のN1車両みたいに、車高をベタベタに下げて、内装もすべて取っ払い、ロールゲージをつけて、走りだけを追求したクルマにした事がありましたが、そうすると普段乗る時には、大きな弊害が出てきます。
それは、大きな段差があるようなコンビニに入る事が出来なかったり、道路に植え付けられている反射板がマフラー中間部にヒットしたり、タイヤ止めにマフラーを擦ってしまったりと、普段使いにおいて、非常に乗りにくくなるにもかかわらず、見た目と走りを優先させて、気を遣いながら乗っていた時期がありました。
クルマは違いますが、クルマに目覚めて、思いっきり自分でチューニングして、普段乗りでは乗りにくいクルマであったにも関わらず、クルマなりのウィークポイントを知りながら乗っていた頃の感覚をこのF355に乗って思い出させてくれました。
今のクルマは、良くも悪くも、お金さえ払うことが出来れば、誰でも乗れてしまう快適なクルマになっています。そのため、そのクルマなりの走らせ方、付き合い方、そういった気遣いみたいな物を持たないまま、ただハンドルを握って、クルマの動力性能や見た目だけを比較する事になり、安易に楽しんでるだけの世界観が先行しているかのように思います。
だからこそ、クルマが好きになった、90年代を振り返り、NSXやF355などのピュアスポーツを再考してみると、かつてNSXを手に入れた時のようなドキドキ感が、このF355にもしっかりと備わっており、ピュアスポーツのお手本によるようなクルマである事をしっかりと感じる事が出来ました。
もうサーキットは走る事がなく、クルマを労りながら公道を走り、F355の持つエクステリア、エンジンサウンドを味わいながら、コツコツとメンテナンスを積み上げて行けるような、乗馬するように生き物を飼う楽しみがこのクルマにはあり、そんな楽しみ方もまたいいなと、新たなスポーツカーの楽しみ方の価値観をこのクルマから教わりました。
まだサーキットをリタイヤするつもりはありませんが、リタイヤすると決心した時には、ぜひ手に入れて付き合いたいクルマだと感じました。
おそらくは、もうこんなクルマは、出てこないのではないでしょうか。
大林 寿行 View All
H社及びM社ドイツエンジン部品メーカー2社を経て、国内自動車メーカーの実験エンジニアに従事。主にクルマのエンジン耐久信頼性実験とその研究に携わる。研究においては、H研究所出向中、エンジン内部の要素研究に着手。自動車技術会、SAEへ研究論文を発表し、「ピストンピン打音発生時の潤滑挙動可視化」やM社時代大学の研究室との共同研究「ディーゼル用スチールピストンの摩擦力と特性とスラップ振動の関係」などがある。また、「内燃機関のピストン構造」で特許を出願。しかし、順風満帆な日々は続かず、うつ病を患うことになり、これからの仕事の仕方について真剣に向き合う。情報発信を駆使して、エンジニアからジャーナリストへの転身を見据え、「エンスージアストへの道」ブログを立ち上げ、クルマ系記事を執筆。今年からは、クルマ系動画クリエイターとして独立を果たし、新車及びカー用品のレビューを本格的に実施。ブログ記事執筆によって、動画の新車レビューでお届け出来なかった内容を執筆し、クルマのエッセンスをより詳しく発信。また、カー用品では、デシダルルームミラーを始めとした、主に新車購入時に注目される用品を中心に、海外メーカーからタイアップの話を頂きつつ更新中。クルマを通じて、誰もが楽しいカーライフが得られるきっかけづくりを目指します。